なぜ、日本には孫さんしかいないのか
UberやFree Wi-Fiを通して日本とアメリカのITに対する意識の差を体感し、変革の進まない日本の現状を指摘する夏野さん。
変革に取り組めない最大の原因は「人」にあると分析し、それは多くの経営者にも共通する課題だと考える夏野さんは、ソフトバンクの創業者であり現在も経営のトップで舵をとる孫正義社長の名を出す。
「孫さんと他の日本人との一番の違いは、過去に自分がやっていたことと同じことをやるのが嫌いな人だということです。」
どんな経営が成長を妨げてきたのか
「孫さんは、これだけテクノロジーがたくさん出てきたら、それを使いたくなる方なので、そのテクノロジーを淡々とビジネスに移しているだけなんです。だから、資金が必要ならば中東から引っ張ってきたり、iPhoneのために携帯会社を作ってしまうなど、チャンスがあったら現代に合わせて包み直して、新しい価値を出す、ということを孫さんは繰り返してきたんです」
(もちろん、日本には孫さん以外にも「名経営者」と呼ばれる人たちはいる。)
「京セラの稲盛さんや、ユニクロの柳井さんのように、過去と違うことを新しく取り入れることで、シェアを拡大したり事業を大きくした名経営者はいます。
ところが日本の経営者は、過去から続いてきたものを守っていれば、自分の会社は維持できると考え、それを最大の目標にしているケースが非常に多いです。
だから、20年も前に作られたERPなどの基幹システムをそのまま使い続けたり、21世紀型のシステムに更新しても社内ルールを維持したまま。それではいくらシステムを更新しても、決済する人の数が減らなければスピートが上がらないのと同じです」
(過去と現在の違いを鋭く認識し、それをチャンスと捉える経営者の代表が孫さんだとすれば、多くの経営者はリスクを取らずに現状維持を最大の成果だと思っている。)
「子供の頃には、『井の中の蛙』というのは良くない、と教えられてきたけれども、自分の周りは井の中の蛙な役員ばかりで、それに違和感を感じていない経営者もたくさんいます。
そんな中でも、新しいテクノロジーに注目して、『こんなことできまっせ』ってやっちゃう奴が出てくるんです。けれども、それが社長にならないから日本全体のチカラにならない。
私もかつては、スティーブ・ジョブズに勝つためには、自分が社長にならないとダメだと思ったことがあります。それは、iPhoneのプロトタイプを最初に見たときです。そのときの印象は、よくここまで作ったけれども、こんなもんじゃないぞ、と。自分だったら、もっといいものができると思いました。ただ、執行役員の立場では社内の反対も多かったんです」
10年以上も前に、iPhoneよりも優れたスマートフォンを世に送り出せたかもしれない夏野さんを阻んだのは、まさに変革を恐れる日本の企業体質。
現状維持を目的とした経営が、成長を妨げてきた日本の現状を経験してきた夏野さんは、さらにビジネスの現場でも「テクノロジーがあるのに生産性が上がらない」という課題を問いかける。
次回のコラムで最終回、
お楽しみに。