《連載:第1回》 未来について考える3冊
市場や社会環境の変化を背景に、現在、ビジネスにおけるあらゆる領域でアップデートの必要性が叫ばれています。もちろんそれは、IT担当者および技術者も例外ではありません。いわく、「間接部門から経営・ビジネスに貢献する部門へ」「プロフェッショナルであるだけでなくイノベーティブな人材へ」。
これは言い換えるならば、もはや専門知識の習得だけでは不十分ということでもあるでしょう。社会に目を向ければ、ジェンダーやコミュニケーションなどの領域でも大きな価値観の変化がみられます。今後、経営やビジネスにも関わっていこうとすれば、こうした事柄に関する思考や感性のアップデートが必要なのは言うまでもありません。 そこで今回は、いつもと趣向を変えて、社会・ビジネスの現在と未来を考える書籍を紹介します。第1回目は「未来について考える本」。イノベーティブなアイデアを生み出すヒントにも満ちた3冊です。
未来について考える本① 『さよなら未来』(若林恵/岩波書店)
雑誌『Wired』日本版の前編集長(2012~2017年)によるエッセイ集です。テーマはイノベーション、医療、アフリカ、食、SNS、アート、都市、フェイクニュース、ことば、福島第一原発事故、音楽、働くということ、おっさん……などなど多彩。
『Wired』といえば、最新テクノロジーを扱う未来志向の雑誌というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、本書に収録された文章の多くは、近年の「テクノロジー・バブル」と呼ぶべき状況や、その楽観的かつ曖昧な未来観に鋭いツッコミを入れる内容となっています。
そしてそのツッコミは極めて本質的。日々テクノロジーに囲まれ、「便利」や「効率」、あるいは「合理化」「最適化」といった言葉を、疑うことなく「価値あるもの」として扱っている私たちに、新たな視点を与えてくれます。
未来について考える本② 『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』 (小川さやか/春秋社)
著者はアフリカ地域研究を専門とする人類学者。本書は、香港の有名な安宿「チョンキンマンション」を根城に、香港とアフリカを股にかけたビジネスを展開するタスマニア人たちに密着したエッセイです。
登場するタスマニア人の多くは、金儲けのためにあの手この手を使って香港に渡ってきた人々。そんな彼らのビジネスの基盤となっているのが、InstagramなどのSNSで構築された極めてローテクなプラットフォーム〈TRUST〉と、〈「ついで」の精神〉です。
この2つを武器に、テクノロジーによる監視社会とも批判される、個人の信用格付けを基盤としたシェアリング・エコノミー全盛の中国の目の前で、個人の信用度どころか素性も問わない独自のシェアリング・エコノミー・ネットワークを形成し、ビジネスと相互扶助(助け合い)を両立させているタスマニア人たち。その姿は痛快ですらあります。
未来について考える本③ 『地球にちりばめられて』(多和田葉子/講談社)
ビル・ゲイツをはじめ、シリコンバレーのイノベーティブな起業家には、SF小説愛好者が少なくありません。本作はSF小説と呼んで良いかどうかはわかりませんが、同じように未来への想像力を刺激してくれます。著者は村上春樹と並んで、ノーベル文学賞候補に何度も名前の挙がる世界的作家。ドイツに住み、日本語とドイツ語の両方で小説や詩を発表しています。
主人公はHirukoという名の若い女性。ヨーロッパ短期留学中に母国(記載はありませんが日本と思われる)が消滅してしまい、現地言語の習得もままならないまま移民となった彼女は、なんと独自の言語を作り出し、同じ母国語を使う仲間を探す旅に出ます。
その言語の名前は〈パンスカ〉。北欧の簡単な単語だけを並べて作られた簡素なもので、恋人は〈並んで歩くひと〉、饅頭は〈マジパンチョコレート〉、懐かしいは〈過ぎ去った時間は美味しいから食べたい〉と表現されます。
全2回変化の時代に必読!思考・感性をアップデートさせる書籍案内
《連載:第2回》 多様性について考える本3冊
《連載:第1回》 未来について考える3冊
2020-08-11
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